電ファミニコゲーマーの、手動ディープラーニング記事について

電ファミニコゲーマーで「1987年に手動でディープラーニングをしていた驚異の麻雀ゲームがあった」
news.denfaminicogamer.jp
という記事が多くの人に読まれたのですが、実際の内容はディープラーニングではありません。にもかかわらず、ディープラーニングというバズワードを持ってくる釣りは良くないという話です。

これについて、はてなブックマークなどを見ると、何割かの方は、おかしいということには気づいたようですが、特に修正される様子はありません。また、このインタビューを企画した、三宅陽一郎氏は、日本でゲームAIの第一人者として知られてます。おそらく、日本のゲーム開発者は物申しにくいと思うので、自分が書きました。

何が間違っているか?

  • 手動ディープラーニングではなく、評価関数の手動調整である」という説明で十分だと思います。例えば、宮路氏自身が良い動作に対するなんらか評価方法を持っていたとして、それに対して「手動山登り法」「手動焼きなまし法」等ということなら特に問題ないですが…。
    • パラメータ調整で、教師つき学習の手法をとることもできます。ただ、それをディープラーニングというのであれば、まだ無理な解釈をしないといけない点が4つぐらいあり、普通に考えると最適化をしたとしか思えません。
    • また、そもそも論として、評価関数を使った場合、たいていの人がゲームの結果をみてパラメータを調整するという作業を行います。これを手動ディープラーニングと認めると、おそらく1980年代からその他のゲームも手動ディープラーニングしていた!という話になってしまいます。
  • 些末ですが、記事にでてくるメタAIは、三宅氏がよく使う分類に基づけば、メタAIではなく、キャラクターAIでしょう。キャラクターの中で閉じているので。

良い点・同情できる点

  • インタビューの内容自体は興味深く素晴らしいと思います*1。 また、企画を提案した三宅氏も、ゲームAIのエヴァンジェリストとして、大変評価できます。
  • インタビューということで、宮路氏に気分よく話してもらわなければならないという事情は理解できます。仮に「手動でディープラーニングしてたんですよ」「いいえ。これは評価関数を手動調整しているだけで、評価関数(=効用)は、1980 年代から現在に至るまで継続的に用いられています。*2」と答えたら、それは宮路氏が気分を悪くするでしょうし。でもまぁ、やんわり何か指摘することはできたとも思いますが。

なぜ問題なのか?

しかし、これらを加味したとしても、わざわざ間違っている部分をタイトルに持ってきて、釣るのはどうなのか。おそらくタイトルが普通であれば、「宮路氏はディープラーニングを勘違いしており、まぁこれは評価関数の手動調整だけれども、それでも内容は大変素晴らしい」で、特に問題なく終わったでしょう。

電ファミニコゲーマー

まず、電ファミニコゲーマーは、意図的に、誇大タイトルをつけているので、明らかに良くありません。たくさん記事が読まれないと商売にならないのは分かりますが…。
記事の最後をみると、電ファミニコゲーマーは、ゲームAI用語辞典を作り、ゲーム業界の新しい時代の開発者たちのために、貢献しようとしています。その心意気は大変良いことなのですが、それであれば、なおさら、科学の最も基本的なルール、「嘘は良くない」「誇大タイトルは良くない」というのは気にしてほしいです。

三宅氏

三宅氏は、ある意味被害者といえなくはないですが、この記事は三宅氏の提案でなされたインタビューなので、さすがにタイトルのチェックは、できたのではないでしょうか。(OKと判断した可能性もありますが。これに関連した話は、次の記事で述べます。)

近年、ゲーム技術が専門化するにつれ、他の業界と共有できる技術問題も増えてきました。産学連携が大事ということは、以下の三宅氏自身の記事でも述べられています。

そして、大学へのアプローチも重要です。若い人には、大学でゲームAIを学びたい人が多いんです。ただ、日本の大学教官がこの分野に手を出すとイロモノ扱いされてしまうし、教えられる人もいない。ゲーム産業の方から地道なアプローチと継続的な貢献が必要です。

通常の研究者は、産学連携でも研究としての価値を求めます。そこで、このタイトルをみたら「間違ってるうえに、誇大広告。ゲーム業界は、科学的ではなくレベルが低い。かかわらないことにしよう」と思うかもしれません。それこそ、イロモノ研究者しか集まってこないのではないでしょうか?ぜひ、修正依頼してほしいです。

おわりに

もう1つ記事を、書く予定です。

*1:自分もぎゅわんぶらぁ自己中心派MSX版の1と2を持っていましたし、だいぶ遊びました。記事にでてきたネタも分かります。待ち時間でテンパったかがバレバレでした。

*2:三宅氏自身の記事、「ディジタルゲームにおける人工知能技術の応用の現在」人工知能学会誌 30巻 1号 pp.45-64